社内規程の整備方法


 中小企業における税務トラブルの原因は、経理処理の合理性の欠如や、恣意性の介在がその発端となっています。外部との取引から生成される経理処理については、取引先からの証憑書類がその取引における金額の客観性を担保していますが、例えば役員への退職金については、その退職金額がどのような根拠に基づいて算出されているのか、金額の合理性や妥当性について問われることとなります。

 これら内部で発生する取引の客観性と検証可能性を確保するための基準となるのが、社内規程です。今回は特に、税務面での絡みが深い給与規程退職金規程旅費規程交際費規程について、意外と知られていない社内規程の重要性やそれぞれの整備方法について解説いたします。

 

 

    社内規程の位置づけとその必要性

    給与・賞与規程

    重要な役員報酬規程と退職金規程 

    交際費・慶弔見舞金に関する規程の必要性

    意外と不備の多い社内出張旅費規程

 

 

社内規程の位置づけとその必要性

 

社内規程の必要性や役割についてどのように考えればよいでしょうか。

 

規程とは簡単に言うと社内ルールのことです。企業の目的は継続することにありますが、この目的を達成するためには、世の中の変化に柔軟に対応し、そこからニーズを見つけ、サービスや財を提供する必要があります。社内規程は、これら企業が継続して発展していくための仕組みや手順を定めてくいるいわば、基準書のような役割を担っています。

 

必要性についてはどうでしょうか。


企業が発展していくと、従業員が増え、取引が増加していきます。創業当初は、経営者が社内全体を見渡し目配りできたのが、会社の成長にともない徐々に難しくなってきます。この段階に入ると、経営者のトップダウンだけではなく、社内からのボトムアップによる組織体制を構築しなければならなくなります。

 この時に、社内ではある一定のルールを定めていなければ、有機的一体として機能しないばかりか、基準や手順があいまいなため意思決定にブレが生じる可能性もあります。このように組織を統制するためにも社内規程は必要となるのです。


社内規程にはどのようなものを最低限準備しておく必要がありますか。


目標や、社内風土、業種業態は企業にとって多種多様なので、整備が必要となる規程については、それぞれの企業で異なります。そのため、この規程とこの規程を整備しておけば事足りる、というようなことはありません。今回解説を行うのは、税務トラブルとの絡みで重要となる規程が中心です。




給与・賞与規程について

 

給与の規程について、その内容はどのようなことを記載すれば良いのでしょうか。


給与の規程を整備する前にまず必要となるのが、就業規則です。給与の規程、つまり賃金規程はこの就業規則の附属規程として位置づけることができます。

 就業規則に必ず記載しなければならない事項は、労働時間関係、賃金関係、退職関係です。このうち、賃金関係については、賃金規程を附属規程として基本給、諸手当の内容や計算方法、支給方法について定めます。


賃金規定の作成にあたり注意しなければいけないポイントがあれば教えて下さい。


注意すべきポイントについてはいくつかありますが、今見直しが急速に増えつつある残業手当に関する記載は特に注意が必要となります。中小企業の中には基本給しか定めておらず、残業代を支給していない会社を時々見かけます。しかし、労働基準法により会社は1日8時間、1週40時間を超えて労働させたり、深夜に労働させた場合は25%、休日に労働させた場合は35%の割増賃金を支払わなければならないことが定められています。

 そこで、もし基本給しか定めていない場合、以下のように残業代を定めてみてはいかがでしょうか。例えば残業代の定めがなく、基本給のみ23万円としている場合。基本給を20万円として固定残業手当を3万円と設定します。残業代を支給していない場合、従業員から請求を受けた場合遡って支払いをしなければならない可能性がありますが、このように固定残業手当として定めておけばその心配はなくなります。ただし、この場合、固定残業手当が何時間分に相当する金額なのかを定めて、その時間を超えた分に関しては追加で支払う必要があります。

 以下は、固定残業手当が何時間分として定めるのかを算出する際にご参考ください。


給与規定1 .png


会社によっては、夏季賞与や冬季賞与とは別に決算賞与を支給することがあると思いますが、決算賞与を支給する根拠となる規程記載方法があれば教えて下さい。


決算賞与を支給する際に、注意しなければならないのは決算期末日において支給金額を未払計上し、期首において支給する場合です。決算賞与が税務上の損金として認められるためには、次の3つが充足している必要があります。

 1.決算日までに決算賞与の支給額を各人別に受給者全員に通知していること

 2.決算日後1か月以内に受給者全員に支払っていること

 3.決算で未払計上をしていること。

  規程への記載条文については以下を参考にしてください (規程例)

給与規定2.png

 

 

重要な役員報酬規程と退職金規程

 

役員報酬について、県内のとある酒造メーカーが一般的な企業と比較して高すぎると指摘をうけたとの報道がありましたが、役員報酬について税務トラブルを回避するために、どうすれば良いのでしょうか。

 

役員報酬については、支給決定手続きが内部取引であることから客観的で公正な意思決定が行われにくいという側面をもっています。特にこれはオーナー企業では顕著となります。この為、役員報酬の算定基準等をあらかじめ定めておき、この基準の定めに従って継続的に支給額を決定することとし、恣意性を排除していることを明らかにしておくことが有用だと考えます。

 また、過大な役員報酬の判定を課税庁は実質的基準と形式的基準により行われることとされています。

 

役員報酬規定2.png

 

 つまり、役員報酬が一般的水準から相当程度高額であっても、上記の判定基準に照らし合わせた結果、過大でないと判定されれば損金算入ができるのです。ただし、実質的基準については具体的な金額を例示するものではなく、役員の職務内容等から総合的に判断することになっているため、課税庁とトラブルになりやすいと言えます。このようにトラブルが発生するのは、役員報酬の決定が客観的ではないということがその一因であると考えられます。

 そこで、役員の職務内容等の判定要素に関しての説明根拠を準備しつつ、役員報酬の支給手続きに恣意性が排除されるような規程を整備しておくことも一つの方法です。(規程例)

 

役員報酬規定.png

 

役員報酬については、不相当に高額な部分について損金不算入となる可能性があることはわかりましたが、退職金についてはどうでしょうか。

 

実は、役員に対する退職金についても、役員報酬同様に不相当に高額な部分については損金不算入となる可能性があります。ポイントとなるのは「不相当に高額な部分」です。不相当に高額か否かの判断は、退職金支給の対象となる役員が役員として業務に従事した期間、退職の事情、同業他社(同規模の法人)の役員給与の支給状況等に照らしてどうか、ということになります。不相当に高額となるのは、支給金額の決定や手続きに恣意性が介在するためと考えられることから、この恣意性を排除すれば税務トラブルを回避することができます。そこで役員退職金支給規程の中で、退職金の算定基準を予め定めておき、この基準に従って金額を算定するようにすれば良いのです。

 

役員退職金規定.png

 

 

 

交際費・慶弔見舞金に関する規程の必要性

 

交際費規程を作成する目的を教えてください。また、交際費を経理処理する場合に注意すべき点はどのようなことでしょうか。

 

交際費規程を作成する目的は、税務トラブルを回避するためですが、もう一つ経営管理の側面から交際費の浪費を防止するためでもあります。

 税務トラブル回避という側面からみると、平成25年の税制改正において中小法人については年800万円までの交際費が全額損金として算入可能となったことで安心をしているという話も聞かれます。しかし、交際費については、使途不明金使途秘匿金と判定される可能性もあることから、引き続き注意が必要だと考えられます。使途不明金や使途秘匿金として判定されるのは、交際費の内容や支払先が不明である場合なので悪質なものについては追加課税や重加算税が課せられます。ここまでくるとモラルの問題に言及しなければならなくなりますが、隠ぺいや仮装の意思が無くても、課税庁に指摘を受けないようにするために交際費規程整備を推奨します。

 もう一つは、付き合いや接待等で交際費を必要とする場合に、冗費や浪費を防止するため規程を整備しておくということも考えられます。(規程例)

 

交際費規程.png

 

 交際費は、費用対効果が測定しにくい費用であり、業種や業態によって偏りがあるのが特徴です。会社の利益確保のためにも無駄な支出はなるべく避けなければなりません。例えば営業担当者が接待等で交際費支出を必要とする場合でも、規程を作成しこれに沿うように稟議をかけることで無駄使いを防止することにつながるのです。

 

税務トラブルや交際費の無駄使い防止のための取組みとして良い方法はありますか

 

交際費を管理するためには、年間の予算を作成する中で、交際費はいくらまでと設定すると良いでしょう。年800万円までの交際費は損金算入可能とはなっていますが、限度額まで計上する必要はもちろんありませんし、逆に超過しそうな会社においては、800万円以下に抑えるような運用ルールを定めておくのです。その際に、慶弔金や見舞金といった交際費は、急な支出を要するものであり自社でコントロールをするのが難しいため区別して考えます。

 交際費の予算を策定するには、まず年間の交際費金額を決めます。次にその金額を事業部門、チームの順に割り振り、最終的に1人の営業マンがいくらまで交際費を会社に申請することが可能かを決めます。予算が決まったらこれに基づいて実際の使用金額と対比させて運営管理をしていけばいいのです。


交際費規程2.png

 この業務フローをご覧いただくとわかるように、交際費使用報告書提出について、交際費使用の事前申請期間や、仮払いした際の精算方法について予め規程で定めておき、周知することでスムーズに運用することができ、不正を防止・牽制することが可能となります。

 

 

 

意外と不備の多い社内出張旅費規程

業務上、出張が多いのですが、これまで特に旅費規程については整備しておらずすべて実費での精算を行っていましたが、この点何か問題はありますか。

 

出張旅費については実費精算をしていれば損金計上の要件を満たすかと言われれば、不十分であると当事務所は考えます。本当にそれが業務において必要な出張だったのかについては客観的な証拠が不明瞭であるからです。そのため、出張報告書等を作成して主張先での業務内容や宿泊数、移動経路について明らかにしておく必要があります。

 さらに、支給額についても税務的な側面を考慮すると、「その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして、相当と認められるものであるかどうか」という点に留意するべきです。

 

例えば、出張旅費規程を整備するにあたって記載しておく内容はどのようなものになりますか。

 

基本的な事項から言うと、交通手段と交通費について、それから日当を支給するのであれば日当について、そして宿泊費が一般的です。これらを記載して、出張報告と旅費の精算について定めておくと良いでしょう。出張報告書を具備することは、税務上カラ出張だと疑われないために、そして不正を防止するためにも義務づけることが肝要です。

 ここでのポイントは、日当や宿泊費が先ほど紹介した、同業種、同規模法人が一般的に支給している金額と比較して相当かどうかということになります。特に日当については、何かと出費がかさむ出張先においてこれを補うために支給するものであり、領収書不要で税務上も費用として認められるのですが、その金額の妥当性について検証し、かつ規程の中で明記しなければなりません。労務行政研究所の調査による日当と宿泊費の平均値は以下の通りとなっています。金額を定める際の参考にしてください。

 

出張旅費規程.png

 

 その他の留意点としては、業界団体等の会合、研修会等で交通費が先方負担等なるような出張の場合や、参加費の中に宿泊費が含まれているような場合は二重支給とならないようにします。また、社外の関係者や上司と同行して出張する際に、交通費の等級や宿泊料の基準を変更することがある場合には、規程の中でそのことを謳っておいても良いかもしれません。

 

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